「チャパーエフと空虚」 ヴィクトル・ペレーヴィン 著

チャパーエフと空虚
・うーん、面白さがよく分からなかった。
・複数の世界が混在する話は今までにもいろいろあったと思うのだけど、この本の特徴はどこにあるのだろう。
・理解するには背景の知識がもう少し必要だったのか?
・いや、そういうことじゃないんだな、きっと。結局この本が何を表現しようとしているのかが理解できなかっただけか。

「キャンディーの色は赤。」 魚喃キリコ 著

キャンディーの色は赤。 (Feelコミックス)
・本屋でたまたま見つけた。まだ書いてたんだな。奥付を見ると2007年8月。1年近く新作に気が付かなかったのか。
・で、もう最大の期待でもって読み始めたのだけど、数ページ読んだ印象では、なんか前のように楽しめない! とちょっと焦った。なんか絵が大雑把な感じがするせいかもしれないし、子宮がどうこうって女性の話のせいかもしれない。けど、もしかしたら時間が経って自分の感じ方が変わってしまったせいで、もうかつてのように楽しめなくなってしまったのかもしれない、とかなりの失望を覚えた。
・のだけど、結局それは杞憂で、やっぱり読み進めたら面白い! かっこいい!
・なんだろうなあ、この面白さは。確かに舞台は日常的な日本でセリフは日常的な日本語なのに、凡庸な例えだけど「フランス映画」と聞いてイメージするような映画の雰囲気。絵の力なのかなあ。
・やっぱり絵の力だけじゃないな。具体的な物語に依らずに感情を抽出する感じ。周辺を描くことで中心にある空白のシルエットが浮かび上がって、それが結果的に、捉え難い、表現し難い、感情の揺らぎを精密になぞっている感じ。

「ミスト」 監督 フランク・ダラボン

Mist
・もうほんとにラストのラストでがっかり。
・そこまでは「クローバーフィールド」にもせまる面白さだったのに。巨大生物サイコー!とか思ってたのに。見慣れた世界の終わりの一端をちらっと最後で垣間見せてくれるのかなと思いきや、まるっきり逆かよ。現実の世界はやっぱり堅牢なのね。ちぇっ。あのまま人間の世界が壊れて欲しかった。
・全体的に面白かったのだけど、宗教おばちゃんが撃たれるシーンだけは突き抜けて面白かった。当然のことながら映画は作り物だと思ってみているので、なかなか「やっちゃった」感を感じることはない。けど、それを久々に感じた。
・最初のうちは、なんだか画面が普通のメジャー映画っぽくない安っぽさみたいなものがあって、独特の面白い画面だなあと思っていた。
・訳の分からない脅威にさらされるという「クローバーフィールド」みたいな映画なんだと途中で分かってきて、撮り方の意図も少し似てるのかなあと分かってきた。なんだろう。焦点深度が浅いのかな?
・それにしても、こういう「訳の分からない状況」に置かれる映画はなぜこうも面白いんだろうね。2作続いたのはたまたまか?
・とは言っても、「訳の分からない状況」に、軍がどうたらこうたらと曲がりなりにも理由が説明されてしまって少し鼻白んでしまったのだけど。
・神様がどうこう言っている群集は俺には完全に悪役に見えるのだけど、進化論の否定とかIDとかがかなり公にまかり通っているらしい国ではそういうのはどう見られるんだろう。

「ノーカントリー」 監督 ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン

No Country for Old Men. Cormac McCarthy
・たまらなくかっこいい!しびれた!
・「バートン・フィンク」の訳の分からないエネルギーにやられて以来、コーエン兄弟の映画には無意識のうちにそういう味を求めてしまっていて、以降の映画にはずっと物足りなさを感じ続けていた。きれい過ぎて不安定さのなさが物足りないと言うか。
・そういう意味では今回も設計図からはみ出す感じというのはないのだけど、何が違うんだろうな。
・意味深な感じがずっと持続するのが良かったのか。話的には分からない部分が多い映画だ。そういう余白が余白のまま放り出されているのが良かったのかもしれない。
・主人公よりも主人公を追っかける殺し屋のキャラクターがこの映画の味を決める重要な役割を果たしていたように思える。俺にとってはそこが今までの映画と違ったところだったのかもしれない。
・ロボットのように単純に良心を欠いていたり出来事の認識ができないことによる精神異常的な非道さではなく、むしろ逆に透徹した認識の果ての非道さ。
・人は単に本能に突き動かされて子供を作るだけであり、人は偶然生まれるだけであり、存在することには運命論的もしくは決定論的な意味はない。人類はたまたま進化の結果発生しただけであり、人類の登場には意味はない。生物はなんらかの化学反応の結果たまたま生まれただけであり生物の発生には意味はない。地球も宇宙も物理的偶然から生まれたものであり、存在に意味はない。そして、人も人類も生物も地球もいつか消えてなくなる。自分の存在も存在した記憶も記録もいつか完全に消滅する。
・多くの人は存在の消滅から目をそらすか、神様だとかあの世だとか消えてなくなってしまった後の存在を保証する幻想に寄りかかる。
・だけどあの殺し屋は、意味や主観を剥奪し続けた、いわば科学的な認識の果てにたどり着いてしまった人物のように見える。コイントスはそんな世界の在りようの象徴だ。
・無意味と法則と偶然の最果ての地で、空気を武器とし幽霊と呼ばれるにふさわしい見事な人間離れっぷりだ
・とはいえ、確実に消えてなくなる自分の意思と規律を信じ存在し続ける求道者的人間味も一方で感じてしまった。
・で、そんな殺し屋が体現する思想に対抗するのは、主人公ではなく保安官の役割のようだ。けど、いまいちどう対抗しているのかがよく分からなかったんだよな。まあ、そもそも解釈がずれてるのかもしれないけど。
・「no country for old men」という原題といい、ラストシーンといい、何か意味を持たせてるんだろうけどなあ。
・舞台が実は30年くらい前だったことを考えると、なんとなく「今」を問題にしているようにも見える。30年前に存在した「今」、2008年「ノーカントリー」を観た「今」、未来に存在するはずの「今」。「今」を特別視することは殺し屋の巨視的で抽象的な思想に対抗する。人は「今」と「主観」の中でしか存在できない。

「マイ・ブルーベリー・ナイツ」 監督 ウォン・カーウァイ

My Blueberry Nights
・映画に文句たれたい病はまだ続いているのだけど、最近久しぶりに面白い映画が続いている。
・最近何作かは見逃しているのだけど、ウォン・カーウァイって今までもこんな面白かったっけ?
・時間や空間が、定常的な定規の役割を果たすことに息苦しさを感じているかのように、出来事は伸び、縮み、跳び、時計のリズムが消える。文字通り近視眼的な視覚やガラス越しの光景のもどかしさに空間が消える。
・酒やギャンブルや憎愛が感覚のぶれに拍車をかける。そんなもどかしさとあいまいさの中で、まるで物の存在だけが確かさを保っているようだ。
・けど、物の存在に意味を与えているのはまた自分の感覚であり、物の存在の意味にさまよいながら健気に何かを探す主人公の姿には素直に共感する。
ノラ・ジョーンズレイチェル・ワイズナタリー・ポートマン。女性3人が三様に魅力的だ。

「パンズ・ラビリンス」 監督 ギレルモ・デル・トロ

Pan's Labyrinth
・初っ端の少女の鼻血の映像で引き込まれた。鼻血ってなんであんなにインパクトがあるんだろうなあ。不恰好さがよりやばい感じを引き立てるのかなあ。
・ファンタジー部分の映像も際立っている。巨大蛙の、存在しないはずのものが存在してしまった違和感。手に目を持つ男が動き出す前の静謐な空間。不自然な不穏が満ちていく様子。
・この映画がファンタジー部分だけでできていたら、ほんとに何年ぶりかというような満足感を覚えたろうと思うのだけど、なぜかそうは行かない。
・スペイン内戦の話と、あのファンタジー部分というのは意味的にどう繋がっているんだろう。なんか2つの違う映画を一緒に観たようだ。ただの現実と幻想のコントラスト?だとしたら味気ないんだけど、何か意味はあるのかなあ。ありそうに見えるなあ。でも分からない。
・オフェリアという名前からは「ハムレット」のオフィーリアを連想する。幽霊も出てくる話だし。そういえばオフェリアの母親もハムレットの母親も再婚だ。そういえば映画では二人の出会った時の話を濁そうとしているようだった。殺して奪ったのか?「ハムレット」の有名な台詞に「弱き者よ、汝の名は女なり」というものがあるけど、そういえば将軍もそんなようなことを言っていたようないないような。オフィーリアは狂って死んでしまう。
……うーん、だからなんだって感じだな。考えてもどこにもたどり着きそうにない。