「初恋」 監督 塙幸成

「初恋」公式サイト


不満はかなりある。なのに、ラストシーン、いやラストシーンのちょっと前と言った方がいいか、そのシーンでふいに強烈に心を打たれてしまった。そのシーンまでの冷め気味な気持ちとの落差に自分でも驚いてしまったくらいだ。ラストのシーンなので一応ここには内容は書かないでおく。とは言え、こう書いてしまうと、もしかしたらまだ見てない人に変に期待させてしまうかもしれないので一応少しだけ補足すると、別に意外性があったわけではない。あっと驚く結末があったわけじゃない。他の人は「ふーん」と思うだけかもしれない。もしかしたらそこで心を打たれてしまうのは映画の意図ともずれてさえいるかもしれない。でも、なぜか俺は突然やられてしまった。そこでなぜそんなにも心を動かされてしまったのか考えてみたい気もするけど、あまり触れたくない気もする。
というわけで、後は不満に感じた部分。


「初恋」という題名にしても、「心の傷に時効はないから」というセリフにしても、どうもこの映画自体とかみ合っていない。
この映画は、本来はたぶん宮崎あおいの心に焦点を合わせようとした映画なのだろうと思う。だけど、60年代後半の雰囲気を作る事に力を入れすぎている感じがして、人物の心中を見ようとしていると余計なものが多い。例えば、ラジオで人類が月に立っただとか、永山則夫がどうだとかを喋っている。そういう、この映画の物語と直接関係なく時代背景を説明するだけの小細工が鬱陶しく感じる。その延長かもしれないけど、宮崎あおいの周囲の人物についての描写が中途半端に多くて、逆に主人公の心の闇の部分への侵入が足りない気がした。ところどころに惹きつけられるシーンがあっただけに、主人公の心中に重心を置いて欲しかったなという気がする。


時代描写に関しては、その時代の魅力や考えを伝えようというのでもなく、ただ表面をなぞっている感じだ。
例えば、「俺も権力が嫌いだ。投石したり角材握ったりするのもいいが、俺は頭で勝負したい」
このセリフもよく分からない。いや、この人物の家柄や事件後未遂に終わった出来事などを考えれば分からなくもないんだけど、そう考えるなら、つまりは頭の勝負は負けたって事なのか?でも、この犯人が時代のヒーロー扱いになったと言うのだから本当は成功したとも言えるのだろう。しかし、俺にはこの映画から企業の金を盗んだ犯人がヒーロー扱いになる時代背景というのを感じる事ができなかった。警察を困らせたから? そうなる時代背景を感じさせてくれれば、映画自体がしっくり来たのかもしれない。
もしかしたら、あの時代を直接知っていればまた違う印象を持つのかもしれない。あの映像を見ていれば、自分が体感していた空気が甦ってきて頭の中で再現されているのかもしれない。でも、それを知らない俺からすれば、そんな時代があったんだくらいの印象しか持てなかった。


最後にそれぞれの人物のその後についての説明が入る。あれは一体なんのための説明なんだろう? どんな効果を期待した演出なの? それぞれの登場人物にそれなりに迫って描かれていればその後も気になったかもしれないけど、大して感情移入もしてなくて興味も持てなかった人物達のその後なんて気にならないよ? 事実っぽい雰囲気を出したかったのか? それとも死に方を紹介する事で、時代の雰囲気を出したかったのか?


本当はどんなところに焦点を合わせていたのかという興味で、ちょっと原作は読んでみたくなった。