「ラストデイズ」 - 意匠の餌としての人間

http://www.elephant-picture.jp/lastdays/
監督 ガス・ヴァン・サント


ガス・ヴァン・サントは自殺を考えた事がないんじゃないだろうか。それはもちろん悪くないが、だったらこの映画も主人公ブレイクの周囲の人間の誰かを主役にした方が良かったんじゃないかという気がする。過剰なドラマを付与しなかった事は潔いかもしれないが、もし気持ちが理解できなかったのなら、理解できない気持ちを映画の中心に持ってきた方が俺としては受け入れられる。
この映画は人の死を見つめる。でもそれで? これは動物実験のビデオか? 俺には、実在の人の死が意匠の餌になったとしか見えない。
不気味さを持つ映画は好きだけど、グロテスクな映画は苦手だ。その境界がどこにあるのかは自分でもよく分からない。この映画は俺が苦手とするグロテスクさを持つ映画だ。


倒れているブレイクから、魂らしき裸のブレイクが抜け出てはしごを登っていくシーンがある。リアリスティックに描くこの映画の中で、唯一、非現実的なシーンだ。このシーンに、ブレイクの行動を他人事として捉えている無邪気さと不気味さを感じてしまうのだけど、どんな意図で作ったんだろう。


この映画はカート・コバーンをモデルにした創作だ。主人公ブレイクは実在の人物の名前ではないが、周りの登場人物は俳優名がそのまま役名になっている。
カート・コバーンを実在の人物の名前で映画化しなかったのには色々な事情や嗜好があるのだろう。しかし、もし条件がそろっていたとしても、ガス・ヴァン・サントにはカート・コバーンを実名で映画化する事はできないんじゃないかという気がする。ブレイクという名前にしたのは、一種の逃げなんじゃないか。
理解できないのに理解したふりをするよりは誠実かもしれないが、理解できない人物を主人公に据え、実験対象のように映す気持ちの悪い姿勢には不誠実さを感じる。これを完全に創作だと思って観る事ができれば、もしかしたらもう少し受け入れられるのかもしれない。