「イーオン・フラックス」 監督 ピーター・チョン

イーオン・フラックス オリジナル・アニメーション コンプリートBOX [DVD]

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もう思い付く刺激的なアイデアというアイデアをすべて突っ込んだ無秩序状態。これと比べられちゃ映画版が可哀想だ。採算を考えたらこのアニメの魅力を削ってでもそれなりにまとめるしかない。キング・クリムゾンの「混沌こそ我が墓碑銘」という詩をあげよう。


現実の世界には、恋愛もあれば宗教もあれば殺人も政治も科学も美術も正義もなんでもありだ。それらはすべて絡み合っている。小説や映画は、そんな混沌とした世界のあり方のある一側面だけを単純化して描き辻褄を合わせてしまう。


イーオン・フラックス」はそんな仮想の辻褄には縛られない。まるでひとつひとつが全く別の独立した短編のようだ。
ある回では突然神をめぐる話が始まる。その回以外では神は出てこない。
ある回では未来に行く。帰ってくるわけではない。
ある回ではイーオンが死ぬ。けど、次の回には何事もなかったかのように、何の説明も言い訳もなくイーオンの新しいエピソードが始まる。


イーオン・フラックス」に何度も登場する人体改造では沼正三の小説「家畜人ヤプー」を連想した。さすがにその域までは達していないけれども、このアニメは肉体と物体と意志の越境というSMの指向性を持っている。


ところで、昔SM小説を良く読んでいた時期がある。だけど、実写や実践には移行しなかった。どうも実写になるとグロテスクで苦手だ。そういうものと向き合えないことは俺の感受性の欠点なのかなあという気もするけど、現実的な計算をするとそっち方面に進まなくて良かったのだろう。人それぞれ感受性の欠点や盲点があるのだろうから、いいように考えよう。


アニメのオブラートで包まれて少し鈍ったくらいの刺激が俺にはちょうどいいのかもしれない。久しぶりに俺の中に眠っているSM心に触れた。

家畜人ヤプー〈第1巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)

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