「ラッシュライフ」 伊坂幸太郎 著

ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)

また昨日の「レイヤー・ケーキ」と似たような感想になる。
この小説では関係のない複数の人物の「特別な日」が描かれる。しかし、それらは実は少しずつ回り回って繋がっている。ある人のある行動は、別の人のあれがきっかけだったのかと納得させられて終わる。
俺の場合、本でも映画でも作中で提示された謎が最後に明かされて「なるほど」と思っても、そこに感心するほどの面白さを感じる事は、ないとは言い切らないけどあまりない。むしろ何がなんだか分からないまま放っておかれて終わってしまう方が好きだ。
この小説は、この先はどうなるんだろうと思わせる面白さはある。ちょっといい話風の会話も面白い。そして徐々に因果関係が見えてきて、なるほどと納得させられる。人それぞれの人生がある。うーん、それだけじゃちょっと物足りないんだよな。


ただ、実は話は完全に把握できているわけじゃない。なんか頻繁にこんな事を書いているような気がするな。部分部分の繋がりは理解したけど、時系列に沿った全体像は把握できていない。だから、もしかしたらきちんと検証したら発見があるのかもしれない。
この話はエッシャーの「上昇と下降」になぞらえられているのだけど、エッシャーの絵の面白さは別に人物がぐるぐる回っている事にあるわけじゃない。階段を上っているつもりがまた同じ所に戻っている不思議さが肝だ。
この小説も人と人の繋がりがぐるっと回り回っているだけでなく、きちんと検証してみると、きれいな因果の論理に隠された矛盾がひっそりと挿入されている不思議な話なのかもしれない。だけど、それを発見したところで、新たな面白さが感じられるようになるとは思えないんだな。仮に発見があったとしても、単に新しい「なるほど」がひとつ増えるだけのような気がして、検証してみようという意欲は湧かない。そもそもないかもしれないし。


この小説は、細部の面白さはある。この本の旨味を、俺が捉え損なっている気もしないでもない。あと少し何か俺の頭を刺激するドラマなり矛盾なり不自然さなりがあれば、すごく面白く感じるようにななりそうな気はする。伊坂幸太郎の小説には、喋るカカシとか死神とかが出てくるのがあるらしいので、そういうのはもしかしたら俺も楽しめるかもしれない。

1000ピース 上昇と下降(エッシャー)[世界最小ジグソー] TW-1000-795

1000ピース 上昇と下降(エッシャー)[世界最小ジグソー] TW-1000-795