「見えない都市」 イタロ・カルヴィーノ 著

見えない都市 (河出文庫)

見えない都市 (河出文庫)

これはすげー。このわけの分からなさや、意味ありげな記憶とか記号とか眼差とかといった言葉を俺がどこまで咀嚼できたかは怪しいけど、この本が見せる流体のような言葉世界は、あまり経験した事のないほどの認識の限界を味あわせてくれる。
フビライ汗に、マルコ・ポーロが手振り身振りを交えて拙い言葉で語っているらしき稲垣足穂を連想させる煌びやかさな言葉による街の描写。聞き手の想像力を試すかのような、知ったつもりになっている宇宙の法則を裏切る都市の様子。想像した光景なのか、実在した光景なのか、過去に実際に見た光景なのか、未来に見るであろう光景なのかも判然としない。マルコポーロが語った言葉なのか、それを聞いたフビライ汗が頭に思い浮かべた都市の様子なのかも判然としない。報告するマルコポーロと想像するフビライ汗の間にコミュニケーションが成立しているのかも判然としない。繰り返される禅問答。色即是空、空即是色。
物語らしい物語はない。もし物語があったら、それが現実の重しとなってこの本を硬直させてしまっていたのだろう。