「ニキ・ド・サンファル展」 - 幻想を生々しく打ち砕く実物の銃痕

http://www2.daimaru.co.jp/daimaru/hp/pc/museum_schedule_to3.jsp?HP_NO=15047


「射撃絵画」という言葉に惹かれて見に行った。絵の具を埋め込んだレリーフをライフルで撃ち、絵の具を飛び散らして作成したという。実際にはこれは展示されている作品の中のほんの一部でしかなくて、あとはかなりポップな作風のものだった。でも、俺はやはり「射撃絵画」が良かった。
絵画は基本的に現実ではなく、一種の幻想だ。人物や風景を描いた絵は、本物の人物や風景じゃなく、絵の具やキャンバスで作られている。キリストを描いた絵画の前に立った時、目の前にあるのはあくまでも絵の具とキャンバスであって、キリスト本人がそこにいるわけじゃない。当たり前だけど。「射撃絵画」と呼ばれる一連の作品(絵画というか石膏の浮き彫り)では、そういう幻想の中に現実の銃痕が暴力的に紛れ込む。実際に目の前にある、撃たれて出来た穴は実物だ。思わずまじまじと見つめてしまう。この印象は、既製品の便器をマルセル・デュシャンの「泉」という作品として見るのとは、またちょっと違うような気がする。いや、もしかしたら突き詰めて考えれば結局は一緒なのかもしれないけど、「射撃絵画」の銃痕は、決めごと上に成り立っている幻想をもっと直接的にもっと生々しく打ち砕く。


以前「ヒストリー・オブ・バイオレンス」を見て、暴力は不可避のものだというような事を、暴力は良くないという前提で書いた。だけど、あの文章には暴力の魅力という観点が完全に抜け落ちていた事に後から気付いて、いつか補足したいと思っていた。
ある種の暴力はもちろん良くない事だ。けど、ある種の暴力的な物には強く惹かれるのも確かだ。暴力は爽快だ。もしかしたら、暴力のない世界は味気ないかもしれないぐらいだ。「暴力」という大雑把なくくり方があまり良くないのかもしれない。