「ジャーヘッド」 監督 サム・メンデス

ジャーヘッドHP
もはや”魔術”と呼んでしまいたいぐらいにかっこいい映像に魅了されて、俺の思考力は奪われる。個々のエピソード1つ1つは、想像力を刺激する。俺としては、もうそれだけで十分楽しめた。ただ、難を言うなら、結局この映画が全体として何を見せようとしているのか良く分からなかった。


映画には何かしら意図があるはずだ。戦争映画なら、戦争の残酷さとか、人間の狂気とか、政治家の醜さとかを表現しようとしているのかもしれない。あるいはそういうテーマじゃなくて、観客をアクションでドキドキさせようとか、笑わせようとかかもしれない。なんにしろ、何かしら、観客に見せようとしているものがあるはずだ。
じゃあ、この「ジャーヘッド」の場合は?


なんかそれがよく分からなかったんだよな。
アメリカが正しかった、間違っていたという政治的主張もないように見える。
戦争の狂気? って感じでもなかったな。途中「軍隊では軍規に沿って行動すれば大抵の問題は解決する。怪我をしたら衛生兵を呼べばいい。しかし精神を病んだ場合の解決法は定められていない」みたいなことが言われる。じゃあ、精神的に病んでいく話かと言うと、そうでもない。ところどころに病んだ部分が見え隠れするけど、基本的には普通の精神が描かれているように見えた。
「一度銃を握ってしまった手は、銃を忘れない」というような独白もある。じゃあ、人が変わっていく姿を描いているのかというとそうでもないような気がする。確かに何かは変わっているのだろうけど、この映画の中ではそういう変化より、むしろ何もなかったことが強調されている。
「僕の戦争は4日で終わった」「結局一度も銃を撃たなかった」とかいうセリフがある。また、湾岸戦争というと"NINTENDO WAR"と言われた戦争だ。そういうところから、一般にイメージする戦争と現実の戦争のギャップを描いているのかとも考えられるけど、やっぱりそうでもないような気がする。それがテーマだと言えるほどは、"あっけなさ"は感じられないし、中途半端に残酷さが登場する。
そういう抽象化されたテーマじゃなくて、一個人が見た戦争という視点なのかな。それが一番しっくり来る。でも、その視点に留まりきれずに、いろんなものを明確な意図もないまま詰め込んでしまった感じだろうか。


うーん、いや、やっぱり戦争の"あっけなさ"のような気がしてきた。肉体として参加した兵士から見た現代戦争の"あっけなさ"。そして、それを描く事自体には失敗した?
いや、失敗はしてないのか?いくら"NINTENDO WAR"と言ったって、やっぱり戦死した人はいるわけだし。
もしかしたら。「TVゲームのような戦争」の戦場を描く事が目的だったのか? たとえ「TVゲームのような戦争」であっても、被害者の側から描けばドラマになる。だけど、勝者の側から描くと、もう従来の戦争映画のようには描けないのかもしれない。この中途半端感こそ、現代の勝者側の戦場風景なのか?
湾岸戦争 - Wikipedia


映画の全体像のようなものが見えなくて、その分からなさについてここまで書いたけど、基本的には俺はすごく楽しめた。1つ1つのエピソードとあの映像で俺は満足だ。
もし、映画の中からランダムに10分だけ抜き取って、その部分だけで面白さを競い合う賞レースがあったら、俺はほぼ確実に「ジャーヘッド」を最優秀賞に選ぶだろう。


ところで、海兵隊がなんで船に乗ってないんだと思ったら、海兵隊って海軍と違うんだ。知らなかった。
アメリカ海兵隊 - Wikipedia
アメリカ海軍 - Wikipedia