「ブラザーズ・グリム」 監督 テリー・ギリアム

もう、ギリアムに「未来世紀ブラジル」のような映画を望むことは無理なのか?
期待を裏切らない映像は部分的にあって、別にこれも悪いわけじゃないんだけど。
ただ、気になるのはこの映画の不可解な演出や展開だ。俺に理解できなかった意図が何か隠されているのか?たぶん今までで一番時間を掛けていろいろ調べてこれを書いている。けど、最終的にこれだという答えは出なかった。元々意味なんてないのに、意味を見つけようとしているからなのか?


この映画は、マルバデンの森を舞台とした、"理性や秩序"と"狂気や混沌"の対決と解釈することが出来る。"理性や秩序"を代表するのはフランス、フランス人の将軍、レールや鏡の物理的な仕掛け、事実、光や炎、当時の啓蒙思想、グリム兄弟の兄等々。一方、狂気を代表するのが、マルバデンの森、魔法、別世界の入り口である鏡や水、月食グリム童話、フィクション、ロマンス、グリム兄弟の弟等々。
こういう見方をした場合、気になるのはフランス人将軍の部下のイタリア人だ。あの男はどういう意味を持たされているんだろう。グリム童話を遙かに凌ぐフィクションの代表格、キリスト教?そんな感じでもなかったような……。この映画にはよく分からない部分が多いが、中でもこのイタリア人の心変わりが一番気になる。なぜ、グリム達を撃つのを拒み、自分が撃たれてしまったのだろう。


たぶん、この対決がメインテーマではあると思う。しかし、それは表向きの顔のような気がしてならない。本当にそれだけだったら、もっとすっきりとした映画が出来ていてもいいような気がする。この不可解な演出や展開には裏の意味が隠されているんじゃないだろうか。裏の意味と言うと大げさかもしれないけど、隠し味があるような。なんとなくイラク戦争を連想したけど、ただのこじつけかなあ。


何かありそうに感じた部分を思い付くまま羅列してみる。1つ1つは大した意味はなさそうなんだけど、それがこれだけあると何か引っかかる。単に笑いを俺が理解できなかっただけかも。あるいは、(考えたくないけど)ギリアムが何か失敗した?

  • マルバデンで自分を紹介する時に「チーム・グリム」と言う。「チーム・アメリカ」をちょっと連想した。
  • マルバデンで村人を前にし、「あなた方を解放する」という時に荘厳な音楽が流れマット・デイモンにカメラが寄っていく。そして音楽がぱたと終わり、「で、案内してくれる人はいないか」という台詞との落差。まるで、その台詞がオチになっていて笑うシーンであるかのような演出。でも普通に考えて、笑わせるような台詞じゃないよなあ?
  • 「あなた方を解放する」という台詞。
  • イタリア人がカツラだった。
  • 冒頭で負傷した兵士に金を恵む。
  • 村人に自分の名前を紹介する時に「Mが2つ」と言う。なぜわざわざスペルを教えるのか。欧米ではそれが普通なのか?
  • 子供だけが、グリムが有名人であることを知っている。
  • フランス占領下のドイツ。
  • イタリア人の心変わり。
  • イタリア人が拷問マニア。
  • フランス人の将軍が食べる得体の知れないドイツ料理。ドイツ人ももっと見栄えのするもの食べてるだろうに。
  • 最初の町にはいる時、「宿と食事がほしい」と言って町に入る。ところが、実際には町長に呼ばれたらしい。なぜ堂々と「町長に呼ばれたグリムだ」と言わないのか。
  • 「事実はフィクションより残酷」
  • 泥で出来たジンジャーブレッドマン
  • 最後に姫はなぜグリム兄を選ぶのか。
  • なぜグリム兄弟を主人公に選んだのか。少なくても、グリム兄弟の伝記を作る気はなさそうだ。全くのフィクションなので、グリム兄弟である必要はない。何か意図があったんだと思うんだけどなんだろう。マーケティング上の理由?それにしても、これもまた事実とフィクションを意識的にミックスした映画だ。最近多いなあ。
  • なぜあそこまで執拗にグリム童話(とか他の童話)を話に組み込む必要があったんだろう。
  • きらきらしてるだけの鎧。最後にそれはイタリア人を助ける。
  • 金色の指輪。
  • 最初にイタリア人がグリム兄弟を捕まえる時、わざわざ足をロープで繋いで馬で宿の外に引きずり出す。で、わざわざ宿の外でロープを切って、逃げ出せる隙を見せる。結局は簡単に捕まえてしまうけど、最初から普通に捕まえればいいのに。拷問好きというキャラクタのせい?
  • フランス人将軍とグリム兄が対決している時、フランス人は「お前の弟はどこにいる?」と聞く。なんで?
  • 実際のグリム兄弟とは、兄と弟の名前が逆。


とりあえず答えは出なかったけど、その他ウィキペディアを中心に調べたものも書いておく。映画とは関係ないかもしれない。
1798年って出てきたような気がするんだけど、ネットでちょっと調べた限りは映画の舞台は19世紀としか出てこない。まずはそのころのドイツについて。


ドイツの歴史 - Wikipedia
初っぱなから出鼻をくじかれる。1800年頃はドイツは神聖ローマ帝国の一部だったんだ。


神聖ローマ帝国 - Wikipedia
とは言え、1800年頃は帝国は300の領主国家に分裂していて、神聖ローマ帝国とは名目だけの存在だったらしい。


ライン同盟 - Wikipedia
1806年、ナポレオン1世の圧力により神聖ローマ帝国内の全ドイツ諸侯は次々とフランスと同盟した。同盟と言っても、実際はフランスの属領のようなものだったようだ。これを「ブラザーズ・グリム」では「フランス占領下のドイツ」と言っていたのか?


ナポレオン戦争 - Wikipedia
ライン同盟の頃には、イタリアの北部のほとんどがフランス帝国の一部だったようだ。イタリア人はパルマ出身と言っていたので、パルマフランス帝国に入っていたのだろう。
ライン同盟は西南ドイツ諸邦の連合体だそうだ。ライン同盟が出来た後、プロイセンがフランスと戦い、1806年フランス軍がベルリン侵攻とある。ベルリンあたりは神聖ローマ帝国じゃなくてプロイセンだったらしい。


プロイセン王国 - Wikipedia
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この映画の舞台がライン同盟の方なのかプロイセンの方なのかはよく分からない。ただ、「フランス占領下のドイツ」だから、こっちが舞台かもしれない。


パルマ - Wikipedia
パルマ公国は1801年にフランスに合併したらしい。


ナポレオン・ボナパルト - Wikipedia
フランス革命の思想がナポレオン戦争によって各国に輸出されたそうだ。


フランス革命 - Wikipedia
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/furannsukakumeinennpyou.htm
これだとフランス革命の思想というのがはっきり分からないな。


人権宣言 - Wikipedia
人権宣言。非常に過激な社会の再秩序化(re-ordering of society) の核心を含んでいるそうだ。殺されたフランス人将軍は死ぬ間際に秩序がどうとか言って死ぬ。このへんと関係はあるかもしれないけど、「法の下の平等」とか直接は関係なさそうだな。


この時代の思想。


啓蒙思想
理性を重要視する。
ブラザーズ・グリム」の時代というのは、理性を重要視する啓蒙思想が広まった時代だった。殺されたフランス人将軍も啓蒙思想に影響されていたんだろうな。たぶん。それで、理性的じゃないあの森を認められなかった?


イマヌエル・カント - Wikipedia
1724-1804。哲学の基礎となるべき理性について考察した


ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ - Wikipedia
1749-1832。


グリム - Wikipedia
ヤーコプ・グリム(1785-1863)
ヴィルヘルム・グリム(1786-1859)


グリム童話 - Wikipedia


ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル - Wikipedia
1770-1831。


シュヴァルツヴァルト - Wikipedia
http://www.dance.ne.jp/~redbrick/hanasi/koba4-3.htm
ドイツの「黒い森(シュヴァルツヴァルト)」というのは有名らしい。知らなかった。


マルキ・ド・サド - Wikipedia
1740-1814。拷問からの連想。


http://www1.kagome.co.jp/vege/yasai/taizen/shouga/a.html
ジンジャーブレッドマンって初めて聞いたけど有名なんだな。


ジョン・エヴァレット・ミレー - Wikipedia
「象徴主義ってば何?」のためのガイド
水に浮かぶ女性の映像で、この人の絵「オフィーリア」を単純に思い出しただけ。時代的にはちょっとずれる。


モニカ・ベルッチはずっと気にはなっていたんだけど、この映画で初めてきれいに見えた。「マレーナ」見ようかな。