「スナッチ・アウェイ」 監督 セドリック・クラピッシュ

クラピッシュの映画が未公開でDVDになっているとは。たまたま見つけたから良かったけど。


DVD直行だから、まあそんなには期待してなかったんだけど、結構クラピッシュっぽくて良かった。普通に映画館でやっても良かったんじゃないか?
とは言え、やはり今までの映画ほど気分が鼓舞されるほどの面白さはなかったか。


何が違うんだろう。
はっきり違うのはまず題材か。今までこういうアクションというかサスペンス的なものはなかったよな。
でもそれはあまり大きな違いは生んでない気がする。この映画でも、主人公の内面の不安定さを描こうとしているし、そういう面が成功していれば、今まで同様もっと面白い映画になっていたろう。
そう、部分的には今までと似た感触がある。
でも、その感触が今までほどダイレクトに伝わってこない感じだ。


うーん、難しいな。違いを見つけようと思うなら、今までの映画を思い出さない事には見つけられないんだけど、具体的なところをあんまり思い出せない。


そうだな、クラピッシュの映画の魅力というのは、登場人物の不安定さなんだよ。
ある程度思い出せるのが「猫が行方不明」と「スパニッシュ・アパートメント」だからそれが基準になってしまうけど。
気持ちの迷走ぶりが伝わってこないのかな。
主人公の女は「悪の道もいいか」と思ってそちらに走ってみるわけだけど、そこに妙に安定感があるんだな。
不安定さがない訳じゃないんだけど、あんまり伝わってこないのかな。


女は単独の強盗を働くようになる。一度失敗し危険を感じ、かつては反対した男の計画した大博打にのる。
こんな感じの流れがストーリー的過ぎる感じがするんだな。エピソードを積み重ねてキャラクタの内面を現してく手法とマッチしていない。
そうか、単純に登場人物の行動に納得できないのかも。
もともとストーリーに乗せて何かを見せようとしている映画だったら、これでいいかもしれない。「金は欲しいけど会社勤めには戻れないから強盗する」「一人で危険な目にあったから男の元に返る」。ストーリーを展開させるには十分な理由かもしれない。
ただ、クラピッシュの映画に期待しているのは、ストーリー展開じゃない。なぜ一人で強盗するようになったか、なぜ男の元に返るのか。そこの所にもっと味が欲しい。逆に、そこんとこに味があれば、ストーリーはもっと地味だっていいんだ。


ストーリーに走る部分は、内面をあぶり出す余裕がないまま話を進めてしまう。ストーリー展開と内面描写のバランスが良くなかったのかもしれない。


最初からストーリー展開重視ならそれでいいのだ。でも、クラピッシュの場合、かすかな気分の肝を並べて、ためらいととまどいを滲まそうとしているだけに、ところどころをストーリー展開で片づけられてしまうと物足りなさが残る。


登場人物の年齢にも関係するかもしれない。大人の安定感、諦観といったものが透けて見える気がする。何かを捨てた人達。でもそこに味が感じられなかった。


うーん。やっぱりまた他の映画を見直してみないと、これ以上は分からないな。
どっちにしても、たぶん、最後の大がかりな強盗をする展開はない方がいい感じにはなったろうな。


そうだ。印象に残ったシーンがある。初めて強盗した後、女は逃げる車の中で泣く。それを見て男の一人が「強い女だ」と言った。気持ちの強さと無神経さは違う。後で泣き出すぐらいに本当は怖いのに、その怖さを押さえ込んで仕事を達成した強さを褒めた。泣いた事を弱さと見ずに強さと見た。
これが結構初めの方のシーンにあったから、期待したんだけどなあ。


主演は俺にとっては懐かしいマリー・ジランだ。知らないだけでちゃんと映画にもまだ出てたんだな。ラックスのCMが好きだったよ。


原色がちりばめられた色彩のデザインは、これまで通りだ。
特筆すべきは、実はエンドクレジットの格好良さだったりする。ここだけで時間と金の元が取れるかもしれない。