「亡国のイージス」 監督 阪本順治

単純な娯楽作としては、そこそこ面白かったと言っていいのかもしれない。よく分からない点は色々あったけども。でも、何か伝えたい事があったとすると、その点では失敗しているんじゃないか?


平和とか戦争とかに関しての問題提起がちょっと語られる。でもなんだか中途半端に感じた。なんだかんだ言って、結局乗っ取り犯を取り押さえる話で終わってしまっている。犯人達の思想に話が絡んでいかない。もし、本当に制作者が問題意識を持っていて、それに真っ正面から向き合うなら、あのグソウとかいう薬品がばらまかれてしまった世界を描くべきじゃなかったのか?東京が壊滅した後、日本がどうなるのか、他の国がどう動くか、そういう世界を描かないというのは、単に想像力が足りずに逃げただけなんじゃないのか?


問題提起とは書いたものの、なーんかゆるい。問題を提示できてたか?平和とは何か?という問題自体を具体的に描き出したか?問題を描くとはどういうことだ?たぶん、観た人に「どうすればいいんだろう」「どういうことなんだろう」と考えさせる事だ。この映画はそういう事を考えさせてくれるか?逆に言えば、「犯人側が正しいのかもしれない」と考える人がいるか?「今の日本は間違ってたかもしれない」と考え始める人がいるか?問題というのは、どっちにも理があり、迷う事じゃないのか?
そうだ、この映画には問題はない。主人公はヒーローであり、犯人をやっつけてめでたしめでたしだ。観客に迷いを抱かせない。それはつまりこの映画に問題提起はなかったってことだ。
平和とは何か?という問題提起するなら、平和の功罪両面を描くとか、平和ではなくなってしまった世界を描く必要があるだろう。ところが、この映画にはそんな複数の視点はない。
日本がどうあるべきか、どんな未来を作るべきか、なーんて事は一切描かれていない。犯人をやっつけてめでたし。

原作はいろいろ賞を獲っているらしいけど、こんな感じなのか?脚本の問題なのか?


まあ、問題提起がないからと言って面白くなかったわけでもない。
面白かった発見は、軍人に対する俺の嫌悪感を再確認した事だ。軍人に対してかな?外国映画に出てくる軍人は普通に観る事ができる。漫画の「沈黙の艦隊」は面白く読んだ。
うーん、なんだろうな。実写の日本人だとだめなのかな。なんかホラー映画を観るような、気持ち悪さを感じた。


それから、自衛隊が実際にいて、ああいう生活をしてる人がほんとにいるんだ、と感じられた事が良かったな。俺には絶対できない。自衛隊全面協力しただけのことはある。


それと火力発電所があんなところにあるなんて知らなかった。発電所というとなんか山の中にあるイメージを持っていた。今調べてみたら、湾沿いにたくさんあるんだな。


俳優陣はくどい人たちばっかりだったな。寺尾聡とか佐藤浩市とか中井貴一とか話題性がある(ように見せかけようとしている)映画でよく見るけど、演技が巧いのかな。演技のうまい下手はよく分からない。
原田芳雄のやくざな総理はいい感じだった。真木蔵人はちょっとしかでてないけど映える顔だ。