「狼は天使の匂い」 デイヴィッド・グーディス 著

狼は天使の匂い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

狼は天使の匂い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

最近までこの著者の事を知らなかったが、著作がいくつも映画化されている。この本の解説にも書かれているが(書いているのは原寮だ!)、とりわけフランスでの映画化が多い。また、映画化された作品の監督には、この「狼は天使の匂い」の監督ルネ・クレマンをはじめ、フランソワ・トリュフォージャン=ジャック・ベネックスサミュエル・フラーなど有名監督が並ぶ。そしてゴダールの「アワーミュージック」のラストで出てくる本も、この人の「ストリート・オブ・ノー・リターン」だった。


主人公はあと一月で34歳。俺とほぼ一緒じゃないか。変なところで感情移入する。内容は見事に予想を裏切る。何か犯罪を中心に話が語られるのかと思いきや、実際の犯罪シーンは数ページしかない。話の舞台はほとんど悪党たちのアジトだ。そして延々と描かれるのは、互いの顔の窺い合い。濃密な人間関係。これは戯曲を小説化したものかと思うほど、舞台を変えずにこじゃれたセリフを挟みながら会話が続く。
悪党たちのグループに主人公が紛れ込み、それまでのグループ内のバランスが崩れる。主人公と悪党のグループのリーダー以外はまぬけばかりかと思っていると、みんな実はするどい。互いに互いの気持ちの何かはまったく気が付かないのに、何か別の部分は見抜いている。意外と感受性豊かな悪党達。いつの間にか繰り広げられている佇まいのポーカー。俺の勝手なイメージだけど、確かにフランス人が好きそうな感じだ。
破綻へのらせん階段を下りていく悪党達は魅力的だ。それは反骨精神とか自分の流儀を貫く姿とかそういうのではなく、破滅自体に、その脆さに、徒花の誘惑がある。