「狼は天使の匂い」 デイヴィッド・グーディス 著
- 作者: デイヴィッドグーディス,真崎義博
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/07/15
- メディア: 新書
- クリック: 52回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
主人公はあと一月で34歳。俺とほぼ一緒じゃないか。変なところで感情移入する。内容は見事に予想を裏切る。何か犯罪を中心に話が語られるのかと思いきや、実際の犯罪シーンは数ページしかない。話の舞台はほとんど悪党たちのアジトだ。そして延々と描かれるのは、互いの顔の窺い合い。濃密な人間関係。これは戯曲を小説化したものかと思うほど、舞台を変えずにこじゃれたセリフを挟みながら会話が続く。
悪党たちのグループに主人公が紛れ込み、それまでのグループ内のバランスが崩れる。主人公と悪党のグループのリーダー以外はまぬけばかりかと思っていると、みんな実はするどい。互いに互いの気持ちの何かはまったく気が付かないのに、何か別の部分は見抜いている。意外と感受性豊かな悪党達。いつの間にか繰り広げられている佇まいのポーカー。俺の勝手なイメージだけど、確かにフランス人が好きそうな感じだ。
破綻へのらせん階段を下りていく悪党達は魅力的だ。それは反骨精神とか自分の流儀を貫く姿とかそういうのではなく、破滅自体に、その脆さに、徒花の誘惑がある。