「陰日向に咲く」 劇団ひとり 著

陰日向に咲く

陰日向に咲く

劇団ひとりは好きなお笑いタレントの一人だ。外から自分がどう見えるかという視点で自分を演出する、自意識過剰な部分に親近感を覚える。タイプは違うかもしれないが、人の仮面を意識させる点で竹中直人を連想する。
そんな劇団ひとりが小説に手を出すのはある意味とても自然に感じる。
この小説がある種の面白さを持っていることは確かだ。だけど、たまに見かける絶賛文ほどの面白さを持っているかというと、ちょっと疑問だ。「タレント本」というイメージが邪魔をして損している部分もあるかもしれないが、逆に「タレント本」として期待が薄い分、得している部分もあると思う。
小説はいくつかの短編からなる。登場人物たちの立場、職業、年齢、性別などはそれぞれ違うが、どこか吹っ切れていない点が共通している。これは俺の勝手な想像だけど、これらの人物達に共通しているものは、おそらく劇団ひとり自身の自己像とも共通するものだろう。何人かの人物を書いてはいるが、自分自身がリアルに感じられる感情世界でまとめたところは正解だと思う。いや、リアルなのか? 普通の感性や小さな喜びが清々しい。だけど、「タレント本」という色眼鏡で見ているせいか、まじめなパロディのように見えてしまう部分がある。どこか演技がかってる感じがする
それぞれの話はどこかで別の話と繋がっていて、小説外の世界の広がりが感じられる。ただ、それはこの一作のみに限るなら長所であり、もしこれからまだ本を書いていくなら短所かもしれない。この小説からそういう構成の工夫を取り除いたとき、後に残るものは少ない。うーん、少ないと言ってしまうと言い過ぎか。