「図解 ヒトゲノム・ワールド」 - 素人と専門家のイメージの乖離

図解 ヒトゲノム・ワールド―生命の神秘からゲノム・ビジネスまで

図解 ヒトゲノム・ワールド―生命の神秘からゲノム・ビジネスまで

細胞の中に染色体がある。
染色体は糸状のDNAである。
DNAは2重らせんの糖とリン酸のリボンの内側に塩基が結合した物である。
4種の塩基の特定の並び順が遺伝子である。
生物を特定するいくつもある遺伝子の総称がゲノムである。
なるほど……
うーん、どうもぴんと来ないんだな。この本のせいというわけじゃないけど。


染色体から遺伝子までは、まあなんとなくその入れ子がイメージできる。でも、染色体なり遺伝子なりと、生き物という言わば完成形があんまり結びつかないんだな。細胞が細胞分裂して増える、というのは分かる。ただ、それが分裂の過程で、ある細胞は皮膚になり、ある部分は髪になり、ある部分は心臓になり、最終的に生物になるというのが、イメージできない。なぜ頭にある細胞は肝臓になったりせず髪の毛になるんだろう。


それにしても、この本は随所に主観が入っていたり舌足らずな表現があったりする。一線で活躍した専門家みたいなので間違っている事はないんだろうけど、倫理に関する部分や考え方の部分はどうも頭から信用する気にはなれない部分がある。
家族の話はそれがどうした的な感じはあるけどいいとして、例えば、「俺たちはすごいことをしたんだぞ、もっと評価しろ」みたいなことを書かれても、少し鬱陶しい。それがどれだけすごいか判断できるだけの知識がないから、俺はこういう本を読んでいるわけだ。「すごいんだぞ」と言われて「すごい」と思う人はいない。


あるいは、多くのキリスト教徒が進化論に意義を唱えていたという話の後に

ゲノムの研究者で宗教的な人はいないのでこんな混乱はなかった。

と書かれているけど、ほんとにそうなの?


遺伝子組み換え食品の話では

煮たり焼いたりして食べるのだから、遺伝子あるいは遺伝子が作る毒性のタンパク質のまま存在するものは少ない。だから概ね安全である。

ほんとか? 専門家がいうんだからそうなのか? 煮たり焼いたりすれば危険な遺伝子がなくなるのか? なんとなく素直には受け入れ難い。特に「概ね」というところがうさんくさい。

人類が大昔からやってきた食品の品種改良では、自然の掛け合わせをして、見た目、あるいは食べてみて良かったということで受け入れてきた。だから、遺伝子レベルで何が起こっていたかということは何も分からなかった。それと比べてみると、遺伝子組み換えには論理性がある。その先を進めていく方策も立てられる。したがって、基本的には遺伝子組み換え食品は受け入れるべきだと思う。それが安全かどうかは一つひとつ体験していかないとわからない。

これじゃあ、納得できない。自然にある食べられる植物と食べられる植物を掛け合わせてできたものだったら、例え危険だったとしても、たかがしれているような気がする。でも、遺伝子組み換えを行った食品はそれじゃ済まないんじゃないかというのが俺みたいな素人のイメージだ。自分の遺伝子になにか悪影響があるんじゃないかという気がする。ほとんど化学薬品や放射能みたいなイメージだ。そういう素人とのイメージの乖離を分かっていない気がする。
論理性? すべての遺伝子を解読した上で論理性というのならまだ納得できるけど、一部しか分かってないのに論理性ってどういうこと? 最後の一文からしても、結局影響を全部把握してるわけじゃないだよね?


こういう揚げ足取り的なツッコミは随所にあるのでいちいち書かないけど、入門書としては他の本の方が良かったかもしれない。